大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成元年(行ツ)36号 判決

上告人

紅屋商事株式会社

右代表者代表取締役

泰計機雄

被上告人

青森県地方労働委員会

右代表者会長

高橋牧夫

右指定代理人

関谷耕一

外三名

右補助参加人

紅屋労働組合

右代表者執行委員長

坂田栄三

右訴訟代理人弁護士

二葉宏夫

主文

原判決中上告人敗訴部分のうち、青森地労委昭和五四年(不)第五号不当労働行為救済申立事件に係る命令の取消請求に関する部分についての本件上告を棄却する。

その余の本件上告を却下する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

一上告人の上告理由について

原審の適法に確定した事実によれば、上告人が毎年行っている昇給に関する考課査定は、その従業員の向後一年間における毎月の賃金額の基準となる評定値を定めるものであるところ、右のような考課査定において使用者が労働組合の組合員について組合員であることを理由として他の従業員より低く査定した場合、その賃金上の差別的取扱いの意図は、賃金の支払によって具体的に実現されるのであって、右査定とこれに基づく毎月の賃金の支払とは一体として一個の不当労働行為をなすものとみるべきである。そうすると、右査定に基づく賃金が支払われている限り不当労働行為は継続することになるから、右査定に基づく賃金上の差別的取扱いの是正を求める救済の申立てが右査定に基づく賃金の最後の支払の時から一年以内にされたときは、右救済の申立ては、労働組合法二七条二項の定める期間内にされたものとして適法というべきである。右と同旨の見解に立ち、原審の適法に確定した事実関係の下において、補助参加人がした昭和五三年度の賃金改定に関する本件救済申立てを適法とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

二上告人は、原判決中上告人敗訴部分のうち、青森地労委昭和五四年(不)第五号不当労働行為救済申立事件に係る命令の取消請求を除くその余の請求に関する部分については、上告理由を記載した書面を提出しないので、右部分についての上告は却下を免れない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、三九九条ノ三、三九九条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官坂上壽夫 裁判官貞家克己 裁判官園部逸夫 裁判官佐藤庄市郎 裁判官可部恒雄)

上告人の上告理由

原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈に誤りがある。

即ち、労働組合法第二七条二項は「労働委員会は、前項の申立が、行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から一年を経過した事件に係るものであるときは、これを受けることができない。」と規定している。

この規定の問題点は、「継続する行為」の解釈である。上告人(第一審原告)は、同法の解釈として「昇給査定行為と賃金支給行為は単一のそれぞれ別個の行為である」と主張したが、第一審判決(一四枚末行目ないし一五枚目五行目まで)では、「賃金査定とこれに基づく賃金支払行為とを全体として一個の不当労働行為であるとみるべきである。そうすると、この査定又は決定に基づく賃金が毎月支払われている限り、不当労働行為は継続することになるから、その賃金の支払いの最後のもの、即ち、次期昇給査定又は賃上額決定に基づく賃金支払の前月の賃金支払から一年以内であれば、救済申立は適法ということができる」と判断し、控訴審判決(三枚目裏三行目ないし末行目まで)は、第一審判決を支持した。

このような法解釈になると、事実上昇給・昇格等につき除斥期間の制限がなくなってしまうことになり、立法趣旨から看ても誤りである。

労働組合法第二七条第二項の除斥期間の規定は、昭和二七年の法改正で新設(追加)されたものである。その立法趣旨は、「労使関係の早期安定」であり、複数の不当労働行為事件をつなぎ合わせて、労使紛争の複雑化、長期化することを防止したものである。その法的性格から看ても「同法に定める継続する行為とは、一個の行為自体が現に継続して実行されてきた場合」をいい、行為の結果が継続している場合を指すのではない。「行為とは、賃上査定決定行為」であり、「結果とは、右決定に基づく賃金支給行為である。」と解釈すべきものである。

又、実務上から判断しても本質的に賃金決定行為と賃金支給行為は、別個で単一かつ異質の行為である。

例えば、差別的に「賃金を決定する行為」とその決定にもとづいて「定められた額を月々支給する行為」とを比較してみると、使用者の不当労働行為意思の発現と評価するにふさわしいのは、だれがみても前者である。「定められた賃金を月々支給する行為」は、その実態からみて機械的なものであるばかりか、いったん発現された使用者の意思決定にもとづいて、労働者に対処した結果にすぎないとみるべきである。いわば「賃金決定行為」は向後一年間の労働者の賃金総額を決定し、したがってそれが不当労働行為である場合、賃金上いくらの差別をするのかを決めてしまう行為であるのに対し、月々の「賃金支給行為」はこの上にさらに新たな不利益を課す行為ではなく、すでに差別された賃金につき、そのまま支給するという以上の意味合いはない。即ち、「賃金決定行為」があれば、「支払行為」は当然これに不随し、使用者の新たな行為(当初の賃金決定を変更する行為)がない限り、機械的になされるにすぎない。要するに、いずれの場合も、すでになされた不当労働行為の結果として、不利益に状態が残存していることになる。また、かりに各月の賃金支払行為が不当労働行為だとすると、使用者はすでに決定済みの賃金を支払時に是正するという新たな作為をしない限り、不当労働行為の責を免れないことになり、是正しない不作為(しかも、各月の賃金支給日ごとに、である)が不当労働行為を構成するのとまったく変わらないことになる。やはり、各月の賃金支給行為は、すでに決定済み、発令済みの賃金額を支給する行為にとどまる限りは、不当労働行為(ないしはその一部)と評価する理由にはならないのである。

右の如く、「継続する行為」の正当解釈を、本件の事実関係に当てはめてみると、次のようになる。

「本件一の救済命令」について

(1)昇給査定月 昭和五三年四月

(2)昇給率公表月 昭和五三年六月

(3)四、五、六月分昇給差額賃金支給日 昭和五三年七月一五日(〈書証番号略〉)

即ち、上告人(第一審原告)は、昭和五三年四月に昇給査定をなし、六月に公表し、七月一五日に遡及して、四、五、六月分の昇給分の賃金差額を支給した。

従って、昇給査定行為の終了月は、昭和五三年四月か又は昭和五三年七月一五日である。

被上告人(第一審被上告補助参加人)の救済申立日は、昭和五四年七月一七日であるから、一年以上経過している。

依って、被上告人(第一審被告)のなした「本件一の命令」は違法であり、破棄さるべきである。

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